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神田川の船宿から小舟をやとい、大川へ出ると、
「本所の横川へ……」
平蔵が、船頭に命じた
どんよりとした花曇の空に、一羽の鳶がゆうゆうとして舞い飛んでいる
花見どきで、川向こうは人出も多かった
「もう、花も散ります」
船頭が何気なくいった
大川から竪川へ入ると、本所になる
竪川は、万治二年に掘割りをされたもので、幅二十間。これに橋をかけて一ツ目橋、二ツ目橋、三ツ目橋……その三ツ目橋が平蔵の旧邸があったところだ
三ツ目橋をくぐり、平蔵をのせた小舟は、新辻橋の手前から左の横川へまがって行く
この川が横川である
横川を北へ……入江町の河岸を左にながめつつ、舟はゆっくりとすすむ
やがて、右手に法恩寺の大屋根が見え、そして、舟は出村町へさしかかった
平蔵は、舟を横川町沿いに寄せさせた
「旦那、桜屋敷の花は山桜だけあって散りがおそい。ごらんなさいまし、いまが満開でございますぜ」
「ちょいと、舟をとめろ」
「へい」
幅二十間の対岸に桜屋敷の木立が見える。むかしとちがい、塀も大屋根も、なるほど大身旗本の屋敷に変っていたが、山桜の老樹のみは変らない
こんもりと……みごとなうす紅色(くれないいろ)の桜花が旧高杉道場との境のあたりの木立の向うにながめられた
池波は脚本家だけあって、舞台割りが見事
この、引例の文章は移動撮影という手法
読者の想像をかきたて、目の前をすべるように景色が移動する
池波の作品が映画的といわれる
勿論、作者の企むところ
一流中のピカ一が池波だった
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